家賃督促ではなく、人生設計の話をしよう

 家賃滞納を繰り返す賃借人がいました。もともと家族4人で住んでいましたが、子ども2人は独立。夫婦で住んでいます。58歳の賃借人はタクシーの運転手。奥さんはパート収入のようです。賃借人がここ数年病気がちで、収入が激減し家賃12万円が払えないとのことでした。

 58歳という年齢からすると、それなりの貯金があってしかるべきです。この年代は病気や不測の事態、冠婚葬祭等でお金の支出が多くなる世代です。それを見越しての資産形成をしなければならないところ、病気で収入が減ったから家賃が払えないとすると、この先もっと苦しくなります。
 滞納者全般に言えることですが、滞納できる人はお金のコントロールができていません。収入からいけば高額な家賃と分かっていても(家賃払うのが厳しい)、自分から転居することができないのです。この賃借人もそうでした。今まで何度も家主に手紙を送ってきて、継続して住めるように嘆願します。この契約には長男が連帯保証人でしたが、「子どもにだけは言わないでください」と言われ、家主もそれを振り切って連帯保証人に連絡することができませんでした。それでもさすがに滞納額が家賃の5か月分になり、手続きのご依頼がありました。

 こちらから内容証明郵便を送ると、すぐに賃借人から電話がありました。裁判になれば、息子も被告となります。これを機会にもっと安い部屋に転居して、滞納分を分割で支払い、少しでも貯金してもらいたいと伝えました。まずはどうして滞納かと尋ねると、情報通り「体調崩して仕事を休んで払えなくなった」とのこと。年金受給できるまで、まだ時間があります。仮に年金受給時期になったとき、この家賃が払えるかというと絶対に無理な額でしょう。10万円を超える家賃なら、手取り30万円以上ないと生活は厳しくなります。それだけの年金を受給できる人は、一握りなはずです。ここ数年で引っ越しを余儀なくされるのであれば、一日でも早く転居するのが得策でしょう。家族4人で生活していた部屋も、夫婦だけになったのですから狭くても大丈夫なはずです。一生懸命に説明しましたが、賃借人は「このまま住み続けたい」を連呼します。家賃を払えていないのに……。

 このまま押し問答を続けても仕方がないので、いちどご家族で話し合ってもらうことにしました。「今」だけの問題ではありません。人生100年時代と言われ、喜ばしい反面それなりの資金も必要です。そのため今から、人生設計をし直して欲しかったのです。今まで連帯保証人の息子さんには、滞納の事実を隠していました。迷惑をかけてしまうことなので、きちんと息子さんも含めて話してもらうように促しました。

 それから1週間くらい経った頃でしょうか。滞納額全額が振り込まれてきました。ちゃんと息子さんとも相談して決めたということでした。「将来は田舎に戻るので、そこまでここで住めるように、これからはきちんと支払います」とのこと。息子さんからも「二度と滞納はしない」との確約書もいただいて、一件落着となりました。
 「払います」と言われると、それ以上突っ込んだ話はできにくいかもしれません。それでも踏み込んで、将来的なことも含めて話をしましょう。その時には必ず連帯保証人も巻き込みましょう。それが滞納問題を迅速に解決する糸口になるはずです。 

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